暑い夏も流石にその容色を失って、一年に少ししかない貴重な秋が漸く到来しました^^。東の奥庭では一つだけ結構大きな空色朝顔が雑草の中を掻き分けて花を付けているのを先週発見して驚きました。絶滅しそうなので今度こそ種を取ろうと思ったのですが、花が萎れた途端雑草に埋もれて今回も種を見付けられそうもありません(;;)。きっと「枯木も山の賑わい」と雑草を放置していた愚かな私へ朝顔の報復であったであろうと思い悄然として居ます(;;)。枯れた石蕗の葉が秋の哀れを誘います(;;)。

 

尊属殺人(先週の続き)

大貫弁護士がこの事件を引き受けるということはとても難題でありました。実の父親を殺害した娘であっても彼女になんとか執行猶予を付けてやりたいがし当時その思いを成就させるためには刑法第200条という高い壁が聳え立っています。1908年制定の明治刑法により自己または配偶者の直系尊属を殺した者について、通常の殺人罪とは別に尊属殺人罪が設けられ此の罪が適用された場合、法定刑は死刑または無期懲役に限られるのでした🤬。尊属殺人罪が適用されたら執行猶予は絶対に付けられません(;;)。執行猶予を付けるためには通常の殺人罪に変えねばならぬからです。何故なら刑法第200条が「法の下の平等」を定めた憲法に違反しているから此の条文は違憲であるという憲法論争をせざるを得ないと大貫氏は思いました。刑法第200条か違憲がどうかについての議論は昭和25年既に行われて居り、尊属殺規定は道徳の乱れの歯止めとして機能して居り、親孝行の大切さを刑法に顕しておくのは尤もだと議論の結果、当時の最高裁大法廷は合憲の判決を下して居ました。
「遣るしかないと思ったのは彼女が余りにも不憫でした…」弁護を引き受けるにあたって彼は考えました。今回の法廷での争点は一体何か?殺人事件と言われているが本当にそうか?この事件を単なる傷害致死罪とできないか?または過剰防衛として主張できないか?適用される罪名についても考え、父親殺しであるとなれば刑法第200条の尊属殺人罪だが傷害致死罪ならどうか?尊属傷害致死ということにはなるが、それでも尊属殺人罪と比べれば「無期懲役又ハ3年以上ノ懲役」となり、罪は軽くなるが実際に適用は難しく娘が紐を父親の首に巻き付けもみ合った結果誤って殺してしまったという話まで弁護の際の主張に入れました。傷害致死罪が否定されたら尊属殺人罪が適用されるのは明らかで若しこの一件が尊属殺人ではなく一般の殺人事件だったら刑法第199条が適用され必ず執行猶予がつく筈…。
ならば、どうやって通常の殺人罪を適用させればよいのか?一審での緻密な戦略ありとあらゆる可能性を探り「彼女にはできるだけ細かく、丁寧に話して貰うようにしました。この事件がどれだけ異常でどれだけ常軌から逸しているか裁判官に分かって貰うにはそうするしかないと考えたからです」
生い立ちから父親から初めて関係を迫られた日のことなどを語るうち、本人の目からは自然と涙が零れて行き法廷は水を打ったように静かになり、裁判官にも傍聴者にこの事件が持つ異常さ、悲惨さは充分に伝わって行きました。
公判の最終日には検察官の論告と弁護人の弁論が予定されて居り、「死刑または無期懲役の選択しかない尊属殺人罪、その枠組を乗り越えてなんとか執行猶予を勝ち取ることはできないか?そう考えた大貫氏は主張しました。本件の被告人の行為は正当防衛または緊急避難である…と!
「弁護の際にはありとあらゆる角度から事件を捉え、実際に主張をして行きました」、大貫氏がそう語った実例の一つです。正当防衛の根拠となる「急迫不正の侵害」行為は14歳から始まった強姦行為であると大貫氏は指摘し、そしてその侵害行為は犯行時まで継続したと訴えた。緊急避難にもそれは当てはまり「身体、自由、特に本件犯行時には生命に対する危難が継続して現在していた」と主張しています。つまり侵害行為や現在の危難に対し自らを守り此れを避けるためには父親を殺害せざるを得なかったと訴えたのでした。
「過剰防衛ではないかという可能性も探りました」大貫氏は過剰防衛または過剰避難としての法的主張もしました。更に心神耗弱の角度からも主張を展開しました。彼女の異常な興奮状態がまさに刑の減軽の対象となる心神耗弱状態にあたるという訴えです。先述した傷害致死罪の見地からも主張を試みています。犯行時の精神状況や客観的状況から見てこれは咄嗟の犯行であり、彼女自身の認識は殺意ではなく障害の認識にすぎない。結果的に致死の事実が発生してはいるが此れは傷害致死です。大貫氏は後に最大の争点となった刑法第200条の違憲性についての主張をしました。 (゜o゜; (来週へ続く)

 

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