確定申告期限まで後2週間余となったが、一昨年度から始めた電子申告も2年間の試行錯誤を経て今年は仕事の要領も良くなりスムースに流れて居る。東は西宮から西は加古川まで申告書の提出に行かなくてよくなった分仕事が捗り今年は初年度二年度のチョンボによる再送信も随分減ったようだ(^^)。然し、電子申告にも幾つかのムダがあり所得の内訳書に給与や年金等を記載する欄があるが備考の確定年月欄に年月だけでなく平成まで入力しなければ電子送信エラーになる不都合には閉口する。今更昭和の所得を申告するバカも居ないから平成は省略して差し支えないと思うがこんなアホなソフトを考えた国税庁も国税庁や! 配当金など百銘柄も申告する方があるが、平成を百回も入力するのは苦痛極まりなく手書きの時代には平成など書かなくても受け付けられて居たから是非国税庁に猛省を促したい。それともソフトの作成は昨年半ばであったろうから年末に天皇陛下が崩御され年号が変わることまで考慮の内だったのかな?
ご存じの方も多いと思うが、7年前に長崎県の一税理士が一度相続税の課税対象とされた年金保険金に対し、遺族の年金受領時再度所得税が課せられる矛盾に気付いて国へ取消を求め、一審勝訴の後二審は原告の敗訴となったが、この税理士の執念は凄まじく弁護士の黒衣となって最高裁にまで駆け上って課税の取消を求めた結果、昨年7月最高裁第三小法廷に於いて裁判長は課税処分の全面取り消し国の敗訴を命じる判決を行い財務省並びに国税庁を震撼させたのだった(^^)。
税金の訴訟で国が勝訴する確率は93%と圧倒的に高く、その理由は裁判では正義が勝つなんてことは建前であり死刑囚専門の弁護士は居ても税金専門の弁護士は居ないのが実情である。従って事件を引き受ける弁護士や裁判官に税金の知識が乏しいことと国税庁には訟務官室と謂う訴訟専門部門があり、税金にかけては弁護士も顔負けの連中が多数屯しているので、普段離婚訴訟や交通事故、多重債務で気忙しい弁護士が税金一筋の彼等に勝てる道理がなく我々が五分五分の事件と思って居ても結果を見れば何時も納税者が敗訴して居るため今回の事件は将に特異な事件であり後世に語り継がれると思う。国税庁は慌てふためき今後の法律改正に大童の傍ら、最高裁判決に従って年金所得税の還付請求を受け付ける体勢を敷くこととなった。一税理士の投げ掛けた一石は僅か25600円の還付金に過ぎなかったが、その波紋は大きく過去10年間でナント!20万件300億円もの還付金が発生している。然し還付の門戸が開かれたと謂うもののその還付金の計算の煩雑さは想像を絶する難解なものであり納税者毎に掛金や保険の内容が異なって居るために還付請求のマニュアルが作れず納税者は個々に税務署を訪れては契約内容を説明しやっと還付手続きに辿り着くと謂う牴牾(もど)かしさであり、当の保険会社では何もして呉れずに“税務署で相談して…”と逃げの一手が現実の姿だが、保険会社とて今回の事件では国の共犯者であり、生存者の年金保険も死亡後の年金保険も無差別に源泉徴収した責任は大きく、最高裁の判決後も死亡年金保険の給付に対して漫然と源泉所得税を取り続け、保険金の通知に『還付される可能性があるから税務署で相談して下さい』の書き込みでの逃げは赦されるものではない:-)。
ことの次第を砕いて説明すると、年金保険を相続する際には遺族が年金を受け取る期間等によって年金保険金の額を幾らに評価するかについて相続税法で定められ、例えば10年間で受領する場合は総額の60%が相続税の課税対象とされ20年で受領する場合は年金総額の40%と謂うように相続税の評価額が20%から70%まで細かく決められている。此は年金保険の場合将来の給付に対しては運用益が計算されて居り、一時金で貰うと可成りの額が減額されることを考慮したものである、然し遺族が年金を受領する際には被相続人が負担した保険料に見合う額を控除した部分に対し此を所得と見做してしっかりと10%の源泉徴収が行われて居り、更にその年金の年額に対して確定申告義務が負わされていた。つまり20%から70%で評価されて相続財産とされたものは最早相続人の所有資産であり乍らそれをお金に換えようとしたとき“所得税を払え”と待ったが掛かるのはどうなんや、早い話、相続開始時に被相続人が有していた売掛金や貸付金の債権を相続税の対象にしながらも相続人がその債権を回収したらもう一度所得税を払えとは、明らかに二重課税と違うんか!此が今回の訴訟提起の論点だった。
私は此まで50年近く税理士を務め200件以上の相続税申告に携わってきたが、不幸にして年金保険には一度も遭遇したことがなく今回の事件を知って“さもありなん”と合点したが、つい先日懇意な知人から相談されて奇しくもこの年金保険事件に巡り逢うこととなった(;;)。その年金は最高裁判決と同じ22年の相続に対する年金保険だったが、先ず保険会社からの通知には冒頭『“重要”所得税が還付される可能性があります』と書かれ、裏面には再度『所得税還付の可能性がありますので最寄りの税務署までご連絡下さい』と注記されて居た。通常の個人年金には機械的に収入金額、必要経費、源泉所得税が羅列されて居り申告手続きは誰にも容易であるが、税務署云々…この物々しさには保険会社の当惑が感じられ仰天した(;;)。申告に際し判決直後でもあり還付金の計算にまごつき新設された基本通達を読み解して漸く正解に到ったかと思うが自信は80%しかない(;;)。到底電子申告で対応できるものではなかった。国税庁の永年に亘る勘違いが何故起こったのか如何して此まで問題にされなかったのか慮(おもんぱか)るに、現在の相続税が8000万円辺りの高い基礎控除を持つため100人に4人位しか課税されない仕組みにあることにはたと気付き、残る96人若しくは99人余が相続税とは無縁であるため殆どの人が所得税の課税に疑問の余地を抱かなかったことと、今回の原告も相続税を1円も払ってなかったことを被告の国側から裁判で再三強調されたことで良く分かるが、国税庁もたった4人(それも財産に年金保険がある可能性は更に10%以下だ!)のために96人から所得税を取りはぐれるのは無念だと考え、自家撞着を放置していたのが今回暴かれたのだと思う。所得税と相続税は棲む世界が違うために二重課税と思しきものが数多く存在するが、我々税理士でさえ合点が行かぬものが結構多く、況して税に不案内な人達が不審に思われることは当然だと思う。国税庁では本年4月からの相続税の改正で基礎控除を激減させ納税者が此までの4倍以上に増えることでもあり、この事件を契機に所得税と相続税の垣根を取っ払ったらどうだろうか。財産を相続して相続税が掛かる人が財産の内1000万円と評価された土地を相続税納付のため売ったら税務署から“相続税と所得税は次元が違う、取得価額が不明なら買値は50万円であり950万円の譲渡所得を申告せよ”と税務署に言われたら誰だって怒るだろう:-)。本来税金と謂うものは誰もが納得できるシンプルなものであるべきだ。“所得税と相続税は法律が違う?”笑わせるな!
年金保険事件に興味のある方は訴を提起した長崎の税理士江崎鶴男著清文社『間違ごうとっとは正さんといかんたい!』をお読み下さい。

先週の常用漢字表外読みの答え
(疾う)に帰られました。(とう)
今週の常用漢字表外読みの問題
権力に(抗う) ヒント 送り仮名共に4字です。